会社役員の基礎収入算定の裁判事例
会社役員とは、株式会社や有限会社などで取締役となっている者を指します。
会社役員の報酬の性質は、
- 労務提供に対する報酬となる部分
- 利益を配当する部分
に分かれます。
裁判所は、「労務提供の部分については基礎収入と認めるが、利益配当の部分については認めない」との立場を採用しています。
以下に、会社役員の基礎収入算定についての裁判事例をご紹介します。
目次
会社役員の基礎収入算定の裁判事例|交通事故による逸失利益
会社役員の裁判事例1
とび職を営む有限会社の男性経営者(症状固定時37歳・後遺症併合8号)の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 有限会社は同族会社。
- 交通事故被害者の男性の主な業務は、従業員の手配、現場の監督。
- そのほか、自身も現場における業務に従事していた。
- 業務を行えない期間は、役員報酬の支払いを受けられなかった。
裁判では、被害男性が仕事復帰して業務を再開した後も報酬が690万円に減らされていることや、その報酬の減額が会社の業績不振によるものではないことが考慮されました。
その結果、裁判所は、交通事故時の役員報酬年額1,058万円の65%を、労務提供に対する報酬と評価して基礎収入と認定しました。
会社役員の裁判事例2
会社の代表取締役を務める男性の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 裁判所は、交通事故被害者の男性が営む会社の事業に確実性がないと判断。
- そのため、事故の年の申告所得額を基礎収入とすることは認められない。
- しかし、被害男性は、事故に至るまでの数年間に、継続して賃金センサス男性大卒平均をはるかに上回る所得を得ていた。
裁判では、上記概要3つ目の、「事故に至るまでの数年間に、継続して賃金センサス男性大卒平均をはるかに上回る所得を得ていた」ことが考慮されました。
その結果、裁判所は、1000万円を被害男性の基礎収入と認定しました。
会社役員の裁判事例3
会社代表者の男性(事故時42歳・後遺症14級9号)の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 交通事故被害の男性が営む会社は同族会社。
- 被害男性が、会社に所属する社員の中で、最も長時間、業務に携わっており、請負現場の監督もこなしていた。
- 被害男性自らが打ち合わせを行うクライアントも多数あり。
- 被害男性が(交通事故の)受傷に後、会社の業績が明らかに悪化した。
裁判所は、上記の事柄を考慮のうえ、被害男性の役員報酬の全額を労務提供に対する報酬として基礎収入を認定しました。
会社役員の裁判事例4
土木に関する工事の施工及び管理を行う株式会社の男性役員(症状固定時39歳・後遺症9級)の基礎収入に関する、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 男性役員の株式会社に所属するのは、交通事故被害者の男性と、その妻の合計2名のみで、ほかに従業員等は居ない。
- 実質的に業務を行っていたのは、被害男性のみだった。
- 被害男性自身が、直接、施工や管理を行い、外注先の担当者にもアドバイスや指図を行っていた。
裁判所は、これら事柄を考慮し、月額95万円の役員報酬全額を労務提供に対する報酬と認定して、基礎収入としました。
会社役員の裁判事例5
コンサルティングを行う株式会社の男性代表取締役(症状固定時41歳・後遺症5級)の基礎収入に関する、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 交通事故被害者の男性は、ハイレベルの専門性、経験、知識等を要求されるコンサルタントとして業務を行っていた。
- 受傷後は歩けなくなり、クライアント先に出向いてシステムの導入や援助などを行うことができなくなった。
- そのため、効率的な業務の遂行や、適切なタイミングでの対応は不能となった。
その結果、裁判所は、株式会社の収益が相当減っているとして、交通事故に遭う前の年収2980万円の80%を労務に対する報酬と認定して基礎収入としました。
会社役員の裁判事例6
光関連機器の研究及び開発を行う株式会社の男性代表者(症状固定時41歳・後遺症14級9号)の、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 交通事故被害者の男性は、会社の経営者であると同時に、研究や開発の遂行に関し、中心的に関わっていました。
- 多数の従業員を雇用していた。
- 年商は7億円と高額だった。
裁判所は、従業員の規模や年商額等を考慮して、被害男性の基礎収入を受傷の前年の役員報酬1200万円全額としました。
会社役員の裁判事例7
会社の代表取締役である男性(症状固定時51歳・後遺症12級14号)の、地方裁判所の裁判事例です。
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【概要】
- 交通事故被害者の男性が経営する会社の従業員は、事務員(パート)1人だけだった。
- その事務員(パート)がこなしていた業務は、大工仕事や現場監督などが中心で、営業活動はほとんど行っていなかった。
- そのため、被害男性が業務不能となった後は、営業活動をすることができなくなった。
- 会社の外注費が増大した。
その結果、裁判所は、事故以前の役員としての所得1070万円全額を労務提供に対する報酬と評価して、基礎収入としました。