交通事故による事業所得者の休業損害についての裁判事例
事業所得者とは、弁護士のように個人で事業を営み、収入を得ている者を指します。
事業の種類を問いません。
八百屋さんでも会社形態をとっていなければ事業所得者です。
事業所得者の交通事故による休業損害は現実に収入が減少した場合に発生します。
したがって、事業所得者自身が交通事故により働けなかったとしても、他の従業員の労働により、事業が遂行されて収入が減少しなかった場合には休業損害は認められません。
なお、休業中の固定費(従業員給料、家賃、駐車場代など)の支出は、事業の継続上、必要やむを得ないものは損害となるというのが裁判基準(弁護士基準)です。
以下に、事業所得者の交通事故による休業損害の裁判事例をご紹介いたします。
目次
事業所得者の交通事故による休業損害の裁判事例
上記が休業損害の基本なのですが、裁判事例には以下のようなものがあります。
通常のケースの認定事例
- 左官職人につき、右肩機能及び筋力を回復させる必要性、安全な作業の確保の必要性から、交通事故後から症状固定まで、660日間の全期間に100パーセントの休業損害を認めた裁判事例があります。
- 交通事故時から症状固定までの328日間の全期間にわたって、頚部痛、右肩痛、手の痺れ、腰痛、膝痛などが続いていたとして、100パーセントの休業損害を認めた裁判事例があります。
- 賃貸マンションの管理を業務としていた被害者の就労内容を家賃収入の7パーセントと評価して、症状固定までの休業損害を認めた裁判事例があります。
- 被害者(弁理士)につき、休業期間は交通事故の時から症状固定までとしたが、被害者が比較的早期の段階から業務に復帰していること、後遺障害等級が併合12級に該当することなどを考慮し、休業期間を通じて労働能力を60パーセント喪失したと認定した裁判事例があります。
確定申告による所得を超える収入を認めた事例
- 電気工事を事業とする被害者につき、確定申告の所得は約100万円であったが、交通事故前の収入及び経費について、主な売上先からの売上が640万円あって、経費が93万円と認定して、年額550万円を基礎収入とした裁判事例があります。
- 確定申告では架空の経費を計上していた塗装工につき、実際の経費は5パーセント程度と認定して、基礎収入を計算した裁判事例があります。
- 交通事故前年の確定申告の所得額は170万円でしたが、借入金の返済状況や扶養家族が3名いることなどから、その所得額で生活していくことは不能と認定して、賃金センサスにより基礎収入を認定した裁判事例があります。
- 交通事故前3年間の確定申告による所得額が収入金額に比べて低額すぎ、その金額では生活ができないものとされること、実際にも10人以上の従業員を使用している建設業者につき、賃金センサスを基礎として、交通事故後の売上が35.5パーセント減少していることから、症状固定までの間、同率の休業損害を認めた裁判事例があります。
収入減はないが休業損害を認めた事例
- 妻の協力により減収のなかった建築工事業者につき賃金センサスを基礎収入として、入院中は100パーセント、退院後の1年間は50パーセント、その後から症状固定までは20パーセントの休業損害を認めた裁判事例があります。
- 柔道整復師である妻とで共同経営をしていた鍼灸師である被害者につき、交通事故後の収入には、交通事故前と比べて変化はないが、これは被害者の子の援助によるものとして、交通事故前年の売上収入から売上原価を控除した2分の1を基礎収入とした裁判事例があります。
- 交通事故後に所得が増加しているものの、それは仕事量を増やすことができないまま交通事故前に受注した仕事をしていた事実を認め、交通事故前年の所得を基礎収入として、症状固定までの間、平均20パーセントの労働能力喪失を認めた裁判事例があります。
固定経費に関する認定事例
- 固定経費に関しては、損害保険料、減価償却費、家賃、利子割引料、修繕費、リース料などが、申告所得に加算される傾向があります。
廃業による損害に関する認定事例
- 交通事故後に廃業した美容院経営者につき、交通事故がなければ美容院の経営を続けられたとして、交通事故から2年前の開業費用の約50パーセントを認めた裁判事例があります。
代替労働力に関する認定事例
- 交通事故のため新聞配達ができなかった期間の、代行配達の要因に支払った派遣料を損害として認めた裁判事例があります。
- 単独で業務を遂行していた開業歯科医師が交通事故により全患者の診療を行えなくなった場合に、代診を依頼した医師に支払った給与を損害として認めた裁判事例があります。
- 交通事故による入通院のため、犬の飼育が困難となり、1頭あたり1日2万円を支払い、飼育の代行を委託したブリーダーにつき、犬の飼育には一定の経費がかかるものとして、飼育委託料から経費相当分20パーセントを差引き損害と認定した裁判事例があります。