交通事故は減少するのか?政府による自動運転実用化
やよい共同法律事務所の弁護士やまケンこと、山﨑賢一です。
ドライバーにとって常に付きまとう交通事故の危険性。最近では、高齢ドライバーによる自動車事故が多発しています。
警察庁のデータによれば、平成27年度の交通事故による死者数は4,117人で、死者数全体に占める65歳以上の割合は54.6%にものぼります。
交通事故による死者は、調査開始の1948年から1970年代前半にかけて右肩上がりに上昇。
1970年代には、交通安全や取り締まり強化が行われました。
1980年代には、シートベルトの着用が罰則付きで義務化。ピーク時には年間16,000人もの人名が奪われていましたが、8,000人台へと減少しました。
1990年代には死者数は10,000人を超え、エアバックの普及が進みました。
2000年代には、自動車事故防止システムが製品化されるように。
2003年に発売されたトヨタ車は、衝突被害軽減ブレーキを搭載。同年にはホンダでも搭載されました。
このように、官民一体となって交通事故の死者数は減少をたどってきました。しかし、年間4,000名程の人命が犠牲となっています。
そこで注目されるのが「自動運転」。
今回は、政府による自動運転の取り組みをご紹介します。
目次
官民ITS構想とは?
「自動運転によって交通事故が減少する」。そんな夢のような取り組みを政府が推進しています。
内閣官房・IT総合戦略本部による「官民ITS構想・ロードマップ」は、2014年から策定され、毎年改訂されています。
2013年6月に安倍総理により「世界最先端IT国家創造宣言」が打ち出され、同年11月には安倍首相自らが自動運転車に試乗。
日本で初めて、一般道路での本格的な実証が行われました。
このロードマップは「2020年に世界一安全な道路交通社会」を構築し、その後順次、道路交通社会の円滑化を図るというものです。
官民ITS構想・ロードマップ2016
具体的には、「2020年までに交通事故死者数を2,500人以下とする」ことが指標。
「官民ITS構想・ロードマップ2016」では、高速道路での自動走行や、限定地域での無人自動走行移動サービスを2020年までに実現することを目指しています。
また、政府は自動運転を披露する機会として、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目標にしています。
BRT(バス高速輸送システム)に自動運転システムを搭載したART(自動運転バス)を東京都が導入しました。
ARTは東京オリンピック・パラリンピック会場周辺で運行される予定です。
官民ITS構想・ロードマップ2017
「官民ITS構想・ロードマップ2017」では、高度自動運転実現に向け2025年までのシナリオを策定。
交通事故の削減や交通渋滞の緩和を目標に、段階的な施策を行います。
2020年までに一般道路での自動運転(レベル2)・高速道路での自動運転(レベル2)を、2020年前半までに高速道路での自動運転(レベル3)を、2025年までに高速道路での完全自動運転(レベル4)を目指しています。
交通事故の発生状況と自動運転
「交通死亡事故の原因の96%がドライバーによる人為的ミスである」。皆さんは、この事実をどう思われるでしょうか?
平成28年度の警察庁のデータによれば、交通死亡事故の原因が「漫然運転」「脇見運転」「運転操作不適」「安全不確認」によるもの。
このうち「運転操作不適」とは、アクセルとブレーキの踏み間違いなどで、高齢者の運転では特に多発しています。
政府が取り組む「自動運転」は、人間のうっかりミスによる死亡事故を減らすものと期待されているのです。
「自動運転」と言っても、すぐに無人の自動運転車が道路を走行する訳ではありません。
人の操作の他、自動ブレーキアシストなどのような運転支援システムを組み合わせ、徐々に自動化を進めます。
現状では、無人による完全自動運転にはまだ時間がかかりそうです。
自動運転における各社の動向
2013年10月には、東京でITS世界会議が開催されました。国内外のメーカーが参加し、自動運転技術を披露。
国内メーカーでは、日産が他車や歩行者との衝突を避ける技術について、また、トヨタは時速60~70kmでも動作可能で、ハンドルが自動操作化された衝突回避システムについて、各社市販化を目指しました。
国外では、IT企業のグーグルが、独自の地図データを用いて2017年までに完全自動運転を実現する目標を立てました。
日産の自動運転に関する取り組み
日産自動車は2015年の段階で、一般道路での走行が可能な試作車を発表しています。
右折など対向車や歩行者の動きを確認する必要があるため、一般道での自動運転は、高速道よりも困難です。
2016年には、同一車線での高速道路の自動運転を可能に。
2018年には、車線変更を自動で行う技術で高速道を走行。
2020年には、一般道での自動運転を実用化。日産はこれらを公言しています。
トヨタの自動運転に関する取り組み
トヨタ自動車は2015年に、自動車専用道路での自動運転を可能にした「ハイウェイ・チームメイト(Highway Teammate)」を発表しました。
この自動運転機能は、2020年には市販車に搭載される予定です。
また2016年には、一般道での自動運転を目指した「アーバン・チームメイト(Urban Teammate)」を発しました。
右折や左折、歩行者・障害物の回避を自動化しています。
2020年をめどに、高速道での車線変更が可能な自動運転車を販売する予定とのことです。
Googleの自動運転に関する取り組み
IT企業のグーグルは、2020年までに完全自動運転車を市販すると宣言しました。
完全自動運転とは、ドライバーが不要なレベル4を意味しています。
自動運転の開発段階には、レベル1からレベル4までありますが、自動車メーカー各社はレベル2・3から順次レベル4へと開発を進めています。
レベル2とは、ハンドル・ブレーキ・アクセルのうち複数について自動操作が可能な段階。
レベル3とは、緊急時はドライバーが運転するものの、原則的に自動操作を行う段階。
レベル4とは、無人の完全自動運転が可能な段階。
ところが2016年12月、グーグルは自動運転に関する事業を「ウェイモ(Waymo)」という子会社に委託する方向を発表。
米国では「Googleが自動運転開発から事実上撤退した」と受け止められています。
無人でハンドルもない完全自動運転車の開発。自動運転に関わる各メーカーにとって、グーグルのモデルは多大な影響を与えました。
自動運転実用化の問題点
交通事故防止に自動運転が貢献。夢のような話ですが、現実にはさまざまな問題を抱えています。
まず技術的な問題として、自動運転に不可欠な人工知能(AI)の能力強化です。
トヨタ自動車はAI研究のため新会社を設立しました。米国との競争も熾烈になっています。
また、自動運転車へのサイバー攻撃の問題もあります。インターネット接続機能を持つカーナビなどから、ハンドル・アクセル・ブレーキを司る制御ユニットに攻撃が加えられる可能性があるのです。
さらに、レベル3以上では運転の主体がシステムになるため、法整備の見直しが必要に。
これまでの道路法規では、ドライバーによる運転が大前提でした。道路交通法、自動車保険、交通事故発生時の民事上の損害賠償責任や刑事責任の所在など、検討課題は山積しています。
まとめ
政府は、「2020年までに交通事故死者数を2,500人以下とする」というロードマップを提唱しています。
そのための高度自動運転を実現させるには、警察庁・国土交通省・経済産業省といった官での連携とともに、トヨタ・日産など民の技術開発もカギとなります。
欧米との競争が激化する中、交通事故の減少に向け、自動運転への政府の取り組みが期待されています。