交通事故で被害者が死亡した場合の損害賠償について
交通事故における「示談」とは、加害者が損害賠償金を支払うことやその金額、条件を、訴訟によらずに当事者の話合いによって決めることです。
「和解」という言葉もありますが、これも同じ意味です。
被害者が死亡してしまった場合、この示談はどのように始まり、進んでいくのでしょうか。
目次
被害者が死亡してしまった場合の示談の流れ
通常は、被害者遺族の心情に配慮し、加害者側から示談交渉の連絡を入れるのは四十九日の法要を過ぎた頃になります。
この示談の話合いには、加害者本人が出向く場合もあります。
ただし、加害者が任意保険に加入している場合は、加害者本人ではなく保険会社の担当者が代理人として被害者側と話し合うことになります。弁護士に依頼することもあります。また、被害者側も、遺族本人ではなく代理人の弁護士を立てて話合いに応じることがあります。
代理人を通じて話合いをし、当事者同士が納得する示談内容が固まったら示談書を作成します。示談書には、損害賠償の金額の他に、支払期限・支払方法、示談書の作成年月日などを記入します。示談書が完成したら、当事者双方が内容を確認した上で署名・捺印します。原本は2つ作成し、当事者双方が所持することになります。
被害者が死亡した場合、誰が損害賠償請求を行うのか
被害者本人は死亡しているため、当然ながら損害賠償請求を行うことはできません。
損害賠償請求を行うのは、被害者から損害賠償請求権を相続した遺族(相続人)になります。
相続人は、原則として、被害者の配偶者と子です。
子が既に死亡している場合は、その子、つまり被害者の孫が子の代わりに相続人になります。
なお、場合により、被害者の親や兄弟が相続人となる場合もあります。
相続人がいない場合は、家庭裁判所が選任した相続財産管理人によって損害賠償請求が行われることもあります。但し、非常に例外的な場合です。
被害者本人の慰謝料と遺族への慰謝料がある
2種類の慰謝料
被害者本人に対する慰謝料と、残された遺族に対する慰謝料は別物です。
これらは示談の際に「慰謝料」としてまとめて請求することもできますが、別々に請求することもできます。どちらの形で請求しても、全体の金額は変わらないので、示談の際にそこまで気にすることはありません。
慰謝料の基準は3つ
慰謝料を算定する基準には、弁護士(裁判)基準、自賠責保険基準、そして任意保険基準の3つがあります。
どの基準も、被害者の家庭内の役割に応じて基準金額を定めている点は共通しています。
しかし、その基準額は大きく異なり、弁護士(裁判)基準が最も高額な慰謝料を定めています(被害者の家庭における立場によって、2000万円〜2800万円)。その額は自賠責保険基準(本人分350万円+遺族の人数や被扶養者の有無によって550万円〜950万円程度)のおよそ倍近くにもなります。
任意保険基準は保険会社毎に異なりますが、自賠責保険と弁護士基準の間の金額を定めているものが多ところです。
示談においては、弁護士(裁判)基準がそのまま採用されることはほとんどありません。どうしても弁護士(裁判)基準の金額を支払ってもらいたいならば、弁護士を代理人にした上で裁判を行うことになるでしょう。
慰謝料だけではなく葬儀費用の請求も可能
損害賠償請求の対象となる損害には、積極損害(交通事故によって実際にかかった費用のこと)、消極損害(被害者が死亡しなければ得られるはずであった利益のこと)、そして精神的損害(これに対する賠償が「慰謝料」です。)の3種類があります。
交通事故の損害賠償請求でももちろん、積極損害の賠償や消極損害の賠償といった、慰謝料以外の賠償も請求することができます。
葬儀費用も、このうちの積極損害の一つとして請求することができるのです。
請求できる葬儀費用の具体的な内訳は、墓石・仏壇費用、死体運搬費、火葬費、葬儀屋へ支払った費用、お布施・戒名・読経料です。
香典返しの費用や法事の費用は請求できません。
葬儀費用の請求は、原則として150万円ほどが認められます。
葬儀にかかった費用がそれより少ない場合は、かかった額だけ請求できます。
死亡しなかったら得られていたであろう、将来分の収入も請求可能
被害者が生きていたら将来得ていたであろうと考えられる収入(逸失利益)についても、これが交通事故によって失われたと考えられるため、その分の損害賠償を請求することができます。
この逸失利益は、上の項目でご紹介した損害の分類では消極損害に当たります。
死亡による逸失利益は算定方法が決まっていて、以下の式によって算定されます。
基礎収入×(1—生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入
「基礎収入」は、事故前の被害者の収入を基準とします。
ただし、被害者が学生・幼児や専業主婦、無職者など収入が無い者である場合には、賃金センサスの企業規模計や学歴計、男女別の全年齢平均賃金額といった統計値を基に算出されます。
生活費控除率
「生活費控除率」とは、被害者が生きていれば将来必要になったと考えられる生活費を損害賠償額から差し引くときのその割合のことです。
この割合は被害者の家庭内の立場と性別によって決まっていて、原則として以下の通りです。
被害者が一家の生計を支える者である場合は、被扶養者が1人だけの場合は40%、2人以上の場合は30%です。
被害者がそれ以外の女性の場合(主婦、独身や幼児の場合を含む)は30%
被害者がそれ以外の男性の場合(独身や幼児の場合も含む)は50%
ライプニッツ係数
そして、「ライプニッツ係数」とは、今後働けるはずであった年数(労働能力喪失期間)ごとに定められている数値のことです。
逸失利益を請求する場合は、将来長期間にわたって請求するのではなく、一度に受け取ることになるので、この係数を掛けることで中間利息を控除しているのです。
労働能力喪失期間は、原則として67年から被害者の死亡当時の年齢を引いた年とされています。
ただし、被害者が死亡当時に67歳以上であった場合には、平均余命年数の半分を労働能力喪失期間とします。
また、被害者が死亡当時に年金を受け取っていた場合には、年金部分についても逸失利益が請求できます。