疼痛等感覚障害(CRPS、RSD)の後遺障害等級について
交通事故によって発生した怪我は治癒したものの、激しい痛みが治まらないことがあります。このような状態について、後遺障害の等級認定の実務では「疼痛等感覚障害」と整理しています。
しかし、激しい痛みがあるかどうかは被害者の自己申告によるところが大きく、いわゆる「目に見えない後遺障害」の一類型であることから、その認定には非常な困難が伴います。
そこで、これから疼痛等感覚障害の解説と認定されうる後遺障害の等級についてお伝えします。
目次
疼痛等感覚障害はどんな症状が出るのか
交通事故を原因とする疼痛等感覚障害には、複合性局所疼痛症候群(CRPS)という傷病名が付けられています。
この複合性局所疼痛症候群(CRPS)には、タイプⅠとタイプⅡの2種類があります。タイプⅡは、主要な末梢神経の損傷によって生じる痛みです。これに対し、タイプⅠは、主要な末梢神経の損傷はないものの、微細な末梢神経の損傷によって痛みが生じるものです。
タイプⅡはカウザルギー、タイプⅠは反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と呼ばれています。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状は、焼け火箸をあてられたような痛み(灼熱痛)やナイフで切り裂かれたような痛みが慢性的に続くというものです。
疼痛等感覚障害の原因とは
交通事故によって怪我をすると、痛み(医学用語では「疼痛」と呼ばれています)が発生します。この疼痛によって交感神経(自律神経)が刺激され、血管が収縮し、怪我の部分に血液が流れにくくなり、出血が抑えられます(医学用語では「虚血」と呼ばれています)。
通常であれば、交感神経は傷の回復過程と同調し、傷の回復とともに徐々に血液が流れる量を増やしていくわけですが、何らかの原因によって交感神経が傷の回復過程と同調せず、傷が回復しつつあるのに血液の量が増えない状況になることがあります。
血液には身体の末端に栄養を運ぶという役目がありますので、血液が十分にいきわたらないと、身体の末端組織が栄養を得ることができず、徐々にやせ細り、それが新たな疼痛となります。
疼痛等感覚障害の原因は長らく不明でしたが、現在では、外傷に由来する疼痛は治まったのに、新たに虚血による疼痛が発生した結果、それを治そうとして身体が交感神経を刺激して虚血状態を強めようとし、逆に虚血を原因とする疼痛を強めてしまい、それを治そうとして身体が更に交感神経を刺激して虚血状態をさらに強め、というような悪循環が原因ではないかといわれています。
疼痛等感覚障害は医師でも判断が難しい
疼痛等感覚障害は、前述したように「目に見えない後遺障害」であり、激しい疼痛が生じているかどうかは本人にしか分からないという特徴があります。つまり、本当に激しい疼痛に苦しんでいるのか、それとも痛みに過剰反応しているだけなのかについては、本人でなければ分からず、たとえ医師であっても正確に推し測ることができません。
しかも、疼痛等感覚障害は、怪我が治癒したのに激しい疼痛が治まらない状態のことですので、初診時には診断できないものです。
特に、主要な末梢神経の損傷によって発生するカウザルギーとは異なり、主要な末梢神経の損傷を伴わない反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)は、怪我をした後、しばらく遅れてから発症するというケースがあるほか、怪我をした部分とは別の箇所に激しい疼痛が発生するケースもあります。
このように、疼痛等感覚障害は、目に見えないばかりではなく、交通事故による怪我とは時間的にも場所的にも離れて起こるケースが多いことから、医師であっても判断が難しい症例のひとつであるとされています。
どのような痛みがあるのかを医師に正確に伝えることが重要
疼痛等感覚障害は、目に見えないばかりか、外傷部分と時間的にも場所的にも離れていることから、患者自身が積極的に医師に伝えなければ、医師がそれに気づき、適切な治療をすることを期待することができません。
また、患者が医師に伝えるタイミングが遅れれば遅れるほど、虚血による疼痛の悪循環がひどくなってしまいますし、加害者の任意保険会社から「詐病ではないか」と疑われる原因ともなります。
したがって、できるだけ早期に医師に対してどのような痛みがあるのかを正確に伝えることで、適切な治療を開始するほか、その訴えを診療録に残し、証拠化しておくことが重要といえます。
疼痛等感覚障害の後遺障害等級
後遺障害の等級認定の実務においては、疼痛等感覚障害の後遺障害等級の等級は次のように整理されます。
「軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの」は第7級の4、「疼痛のため服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」は第9級の10等に該当するものとされています。
ただし、タイプⅡのカウザルギーについては、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間、日内変動、疼痛の原因となる他覚的所見などから、疼痛の労働能力に及ぼす影響の程度が上記の3つのうちのいずれかであるといえれば後遺障害の等級認定がなされます。
タイプⅠの反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)については、健康な側と比較して、
- 関節拘縮
- 骨の萎縮
- 皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)
の全ての症状が明らかに認められる場合でなければ、そもそも後遺障害とは認定されません。
後遺障害等級認定は弁護士までご相談ください
このように、疼痛等感覚障害が後遺障害として認定されるハードルは非常に高くなります。
しかし、認定されれば示談金は高額となりますので、認定された場合には、弁護士のアドバイスを受けて行動することが重要です。当弁護士による交通事故の相談は何度でも無料です。交通事故の被害にあったご本人やお身内の方との面談はご希望に応じて承っており、遠方にお住まいの方も事務所までお越しいただかずにご依頼可能です。お気兼ねなくお電話ください。