事業所得者の基礎収入算定の裁判事例
事業所得者とは、会社または個人に雇用されて給与を支給されていることなく、自身で事業を執行している者を指します。
自営業者の基礎収入については、確定申告による所得を参考としますが、申告所得額と実際の収入額が異なる場合には、異なる収入額を証明できれば、実際の収入額を使用します。
所得が家族の労働などの総合で形成されている場合には、その所得に対して、本人がどの程度の寄与をしているかにより計算します。
現実の所得額が平均賃金を下回っている場合には、平均賃金が得られる可能性がある時に男女別の賃金センサスによって計算することになります。
現実収入額の証明ができないときは、各種統計資料による場合もあります。
以下に、事業所得者の基礎収入算定についての裁判事例をご紹介いたします。
目次
事業所得者の基礎収入算定の裁判事例|交通事故による逸失利益
事業所得者の裁判事例1
花屋を経営している女性の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
被害女性が、事故後に申告した事故の前年の取得(402万円)を基礎とする主張は認められませんでした。
しかし、裁判所は、次の事柄により、賃金センサス高専短大卒全年齢平均383万3400円を基礎収入としました。
- 顧客の増加により、交通事故の前々年から(5ヶ月で158万円)、売上が大幅に増えていた。
- 事業開始前に勤務していた花関係の会社で、賃金センサス女性高専短大卒年齢別平均より高額な給与を得ていた。
- 被害女性に、交通事故による後遺障害がなければ、花屋を閉店して会社に復帰できた可能性があった。
事業所得者の裁判事例2
高校卒業の自動車整備業・自動車販売業を営む男性の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
男性の事故前の年収は137万円という少額でした。
しかし、独立してから期間が経っていない時期であり、症状固定時の年齢が30歳ということを考慮すれば、将来においては高卒全年齢平均賃金程度の収入を得られるであろう可能性が認められると認定されました。
その結果、裁判所は、賃金センサス男性高卒全年齢平均461万3800円を基礎収入としました。
事業所得者の裁判事例3
男性弁理士(症状固定時73歳)の基礎収入算定についての地方裁判所の裁判事例です。
裁判所は、被害男性は交通事故前の弁理士業務による所得は不安定であることから、その基礎収入は5年間の営業収入の平均額とすることとし、1324万円と認定しました。
その上で、自らが経営する特許事務所補助業務会社からの収入590万円を加えた1914万円を基礎収入として、逸失利益を算定しました。
事業所得者の裁判事例4
日給制の男性塗装工の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
被害男性の個人事業主としての申告所得額は、135万円に過ぎなかったところ、申告された経費のうち、実際にかかる経費は通信費および消耗品費程度の少額であるとして、受傷前年の年収から5%の経費を控除した565万円余を基礎収入としました。
事業所得者の裁判事例5
小規模な建設自営業の男性(症状固定時52歳)の基礎収入に関する、地方裁判所の裁判事例。
確定申告書記載の所得金額160万円余は、収入金額5150万円と比べて、あまりに低額でした。
よって、裁判所は、このような金額は、現実の生活を送るためには到底足りない金額であるとして、賃金センサス男性学歴計50歳から54歳平均である687万5000円を基礎収入としました。
事業所得者の裁判事例6
競艇選手(症状固定時45歳・男性)の基礎収入に関する、地方裁判所の裁判事例です。
被害男性は、競輪では最上級のA1クラスに所属していました。
交通事故に遭う前、3年間の年収が40歳から44歳の競艇選手の平均年収の約1.5倍もあることから、基礎収入を次のようにしました。
- 症状固定後10年間は選手として稼働可能として、3年間は事故前の平均年収2102万円。
- その後の7年は選手の平均年収の1.5倍である1633万円。
事業所得者の裁判事例7
米穀や灯油の卸・販売、設置配管工事業を営んでいた男性(症状固定時56歳)の基礎収入に関する、地方裁判所の裁判事例です。
被害男性の事業は、確定申告書上は所得が赤字となっており、実際の所得もはっきりしませんでした。
しかし、被害男性は現実に労働能力の一部を失い、この喪失が、事故後の事業の縮小との因果関係が無いとまでは言えないと認定しました。
加えて、ご家族が所得増加に寄与していること等を考慮した結果、平成14年度の各種商品小売業者全労働者平均の459万1200円の7割を基礎収入としました。
事業所得者の裁判事例8
被害男性の建設自営業(症状固定時38歳)の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
事故の前々年の所得は195万円、事故前年の所得は308万円でした。
しかし、次の事柄により、賃金センサス男性学歴計35歳から39歳平均576万8600円を基礎収入としました。
- 営業収入が6800万円を超えること、32歳時には賃金センサスを上回る570万円の所得があった。
- 原価や経費として計上されている金額に、個人で使用されている分が含まれている。
事業所得者の裁判事例9
交通事故後に、建築士事務所を独立開業した女性1級建築士(症状固定時30歳)の基礎収入算定に関する、地方裁判所の裁判事例です。
裁判所は、建築士は資格が男女平等であるから、賃金センサス上の賃金額のように、男女で大きな差が出るものではないと認定しました。
その結果、賃金センサス男性大卒年齢別平均を基礎収入としました。